【インタビュー】 ユーザー第一/高品質/誠実に、そして大胆に。研究者と伴走する受託サービス

古くは阿波藍の産地として発展し、現在はLED発祥の地としても知られるサイエンスを育む徳島に拠点を置くアプロサイエンスグループは、30年以上に渡りプロテオーム解析をはじめ遺伝子、細胞・組織分野など多様な受託サービスを展開してきた。2022年4月に株式会社ファーマフーズと事業統合して以降、Olink® Targetを国内初導入するなど意欲的な展開を見せている。ライフサイエンス分野の隅から隅までカバーして研究者と伴走するアプロサイエンスが「第2創業期」と捉えるこの機会目指す新たなサービスはあるのか、アプロサイエンスグループで技術営業を担当している主席研究員の福田康朗氏に伺った。
(この記事は2022年11月24日に日本の研究.comに掲載されました。)

ベンチャー×ベンチャーのスピード感

── ファーマフーズ社にグループインして半年余りですが、どのような変化があったでしょうか。

さまざまなチャレンジがスピード感をもって可能になりました。ファーマフーズ社はライフサイエンスのベンチャー企業として「技術に興味を持ち、チャレンジせよ」という社風があり、グループイン前から構想していた案件にすぐに取り組んでお客様に届けられるようになったことは私たちアプロサイエンスグループにとって大きな進歩です。オーリンクプロテオミクス株式会社とパートナーシップを結び、国内で受託サービスが行われていなかったOlink® Targetを導入できたことも、その一つです。検体を海外に送ることはお客様にとって時間も費用も手間もかかるものですから、国内で受託サービスを開始できたことは社会的な意義もあったかと思います。他にも海外では当たり前なのに日本ではあまり使われていない解析サービスはありますので、ビジネスチャンスとしても情報をキャッチアップしていく必要があると感じており、ファーマフーズ社という強力な後ろ盾を得られたことで、最新技術をアグレッシブに取り入れていくチャレンジは、より加速できていると思っております。

── アプロサイエンス社も質量分析を用いたタンパク質同定受託サービスを国内初で開始した、いわばベンチャーの先駆けといえる存在でしたね。

アプロサイエンスはまだベンチャーという言葉がなかった1990年に大学や企業の後ろ盾なく徳島という地方都市で起業し、95年には受託サービスを開始しました。この頃に私は大学で研究しておりましたが、当時はまだヒトゲノム計画も完了しておらず、研究対象となる遺伝子は自分達でクローニングして入手することも珍しくない時代です。そのクローニングにおいて、いかに正確で長いタンパク質の配列情報が得られるかが非常に重要でした。また、貴重なサンプルから精製されたタンパク質は微量なので、多くの量を分析にかけることはできません。さらに、精製が十分でないサンプルからシーケンスを行うと配列情報が混在し複雑な解析を要する為、データは取れても解析不能となることがままありました。そういった微量なサンプル、難しいサンプルを扱う時の「駆け込み寺」として話題になっていたのがアプロサイエンスでした。

そのアプロサイエンスに2002年に入社しました。この時、まだ国内で数台しか入荷していない質量分析計が導入されていて、しかもESI-Q-TOF型とMALDI-TOF型の2種があったことに驚きました。当時はこの最新装置の運用に奔走しましたが、ちょうど島津製作所の田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞され、質量分析やプロテオーム解析が注目されるようになった時期で、まさに最先端の技術に携わっているのだと感じました。

── そうした最新の装置や技術をプロに任せられる受託サービスが、多くの研究者の助けになってきたのですね。

今でもそれが私たちの目指すところです。とはいえ、解析は100%を保証して実施できるものではありません。小さなズレでうまくいかないこともありますし、サンプルに問題がある場合もあります。そういったリスクを長年の経験からきちんとコントロールすること、お客様に伝えること、安請け合いをしないことがプロだと私たちは考えています。分析結果は嘘をつけないものですから、お客様にとって都合が悪いデータだったとしても、それが結果であるときちんとお伝えしなければなりません。どう受け入れて、次のプログレスを一緒に考えさせていただけるかというスタンスが、「ユーザー第一/高品質/誠実」を旨としてきた私たちの強みだと考えています。

網羅的解析と超定量の2軸で考えるサービスのこれから

── 新しいチャレンジをしやすくなったことで、どのようなことを考えておられますか。

開発テーマにもよるのですが、一つは質量分析を使ったプロテオーム解析ならではの網羅的な手法をもっと伸ばしていくこと。もう一つはOlink® Targetに代表されるような超定量の解析に取り組むという2軸を考えています。

網羅的な解析は長年やってきたテーマで、サンプルの前処理、分析、データ解析において、それぞれのプロセスを改善・改良をしながら進めてきました。他方でプロテオーム解析は、装置や解析するコンピュータなど多くの技術革新が背骨となっていますから、最新の技術や装置を使ったチャレンジは進めていきたいところです。解析の部分では、最近の次世代シーケンサーによって取得可能となった高精度ロングリードのデータがプロテオーム解析に利用できるのではないかと考えています。特に、高精度ロングリードで得られたRNAシーケンスの情報から、これまでショートリードでは懐疑的に見られていたデータが確かに存在することがわかってきました。そのような新たに確認されたRNAが、タンパク質にも翻訳されている可能性があります。こうした流れをキャッチアップしつつ、網羅的な解析のプロセスを見直すことも必要だろうと考えています。

超定量の軸では、潜在的なユーザーの存在も見えつつあります。ヒトの血清・血漿から微量なタンパク質の検出・定量が可能な Olink® Target は、疾患に関連するバイオマーカーの探索や創薬研究などの領域において注目を頂いております。一方で、ファーマフーズ社はファーマギャバ®などの機能性素材を開発・販売していますが、社内のみならず機能性表示食品に関わる企業やCROなどがOlink® Targetに興味をお持ちです。Olink® Targetの特長である多検体、多因子の分析を微量のリキッドバイオプシーサンプルで行える点が食品臨床試験に有用である可能性があるようです。Olink® Target を中心に、今後も、超定量についての事業展開は検討を進めていきたいと考えています。

どちらの軸にも関わることですが、大きなボリューム(莫大な検体数)の分析を視野に入れる必要も感じています。100万検体の分析を手がけることができたら、新たなサービスが生まれるかもしれません。「量より質」は当然なのですが、質は量から生まれてくるものでもあります。アプロサイエンスもたくさんのご依頼をいただき、様々な経験を蓄積することで「高品質」を掲げることができました。さらに上を目指すには新たな「量」への挑戦も必要になるでしょう。ファーマフーズ社は食品や化粧品も手がけており、これらの分野では大ボリュームの分析が必要とされますから新たなビジネスチャンスにもつながりますし、アカデミア等への提案も幅広くなると考えられます。網羅的、超定量と大ボリューム分析の先にある夢として、空間的プロテオミクスにも挑戦したいですね。

プロテオーム解析をプラスすることで独自性が付与される可能性

── 受託サービスでの新しい提案などはありますか。

アプロサイエンスでは、次世代シーケンサーによる解析サービスも取り扱っておりますが、そこで新規にゲノムデータを取られたお客様にさらにプロテオーム解析をご提案することがあります。その延長線上として新規のゲノムデータだけでなく、より新しい装置で取得した高精度ロングリードやショートリードのデータ解析にプロテオーム解析を加えることで、お客様の研究に独自性を付与できる可能性があるのではと考えています。ニーズとしては未知数ですが、遺伝子のその先にはタンパク質があるわけですから、遺伝子解析の技術が進めば進むほど、プロテオーム解析はいっそう重要になってくるのではないでしょうか。

── 新たなチャレンジが目白押しですね。

アプロサイエンス社は、2012年にゲノム編集技術では先行していたアメリカの企業と提携して、いち早くサービスとして取り入れました。まだ国内では知られていなかった時期に技術を学びにスタッフのひとりがアメリカの提携先を訪問したのですが、アメリカの片田舎に一人で訪問っていうのが珍しかったのか、宿泊先で「何しにこんなところに一人で来たの?」と驚かれた逸話があります。今も良好な関係を築いてますが、その後日本国内でもゲノム編集を扱う企業も増えましたので、ビジネス面では落ち着いた関係になっています。今考えると無謀な面もありましたが、新しいものに対して「おもしろい、やってみたい」という感度と最先端技術を自分たちのものにしていきたいというガッツはずっと持ち続けていますね。

現在を第2創業期と捉えて、ファーマフーズ社の社訓である「Be Bold(大胆であれ)」に邁進していきたいと思っています。ただ、これらのチャレンジが実現したとして、時間や費用などのコストが見合わなければ、受託サービスをお客様にお届けすることができません。受託サービスをビジネスとして継続するため、本末転倒にならぬよう肝に銘じておきたいところです。

── プロテオーム解析をはじめ、受託サービスを検討する方々へのメッセージをお願いします。

私たちは質量分析器が登場する以前からタンパク質の解析を手がけてきましたが、技術も装置も日進月歩を続け、日々新たなデータを生みだしており、今まさにタンパク質を解析すべき状況が整っていると言えます。受託サービス利用を迷っている方や研究内容、目的でお悩みの方、ゲノム解析からもう一歩踏み込んだ突破口をお探しの方は、ぜひ気軽に相談してみて下さい。受託サービス個別オンラインセミナー(無料)も開催しておりますので、ご利用いただければと思います。

(取材/文・坂元 希美)
(掲載/日本の研究.com)

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