【インタビュー】 タンパク質も遺伝子もお任せあれ! “受託解析総合窓口”が研究者の助勢に

アプロサイエンスグループは、2022年4月1日に、更なる成長を目指す為に、株式会社ファーマフーズ(京都市)の一事業部として新たなスタートを切った。

タンパク質解析を中心とした受託解析サービスを扱って約30年になるアプロサイエンスグループでは、遺伝子、細胞・組織、動物試験分野など多様な受託サービスを展開している。これは事業を拡大したのではなく、国内外の他企業と提携してサービスを提供しているのだという。
「アプロサイエンスグループで扱っていない遺伝子解析や、サンプルの前処理、タンパク質発現・精製などが必要になった場合に再委託するわけですが、それぞれの企業と提携することでタッグを組んでいます」とバイオメディカル部の金 智蓮さんは話す。

依頼する研究者は、目指す結果にその解析がマッチしているのかわからなかったり、サンプルを必要とされる状態に用意することができなかったりすることも多い。それを「できません」「違います」と言わずに、研究者と共に考えトータルに伴走するためには、どうしたらいいのか。そこで生まれたのが企業同士の提携とその総合窓口だ。「安請け合いはしないが、できるだけ断らない」をモットーとするトータルな受託サービスがどのように提供されるのか、金さんに伺った。
(この記事は2021年11月30日に日本の研究.comに掲載されました。)

受託サービスコンサルティング担当
(左)福田 康朗、(右)金 智蓮

研究の流れを止めない一貫した受託サービスを目指して

── 他社と提携するようになったきっかけは、どのようなことがあったのでしょうか。

アプロサイエンスグループではプロテオーム解析を軸にタンパク質の解析をしていますが、まずそのサンプルが弊社で解析できる状態になっているかという問題がありました。たとえば臨床研究を行っている先生が組織サンプルをパラフィンブロックで送ってこられる場合、弊社ではそのままでは解析できないので、お客様に目的のところだけを切って、タンパク質を抽出して送っていただく必要がありました。それができないお客様にはその工程を扱っている別の会社をご紹介していたのですが、その会社と弊社が提携していればサンプルの処理から解析までをスムーズに繋いで、結果をお渡しできると考えました。現在、10数社と提携することでタンパク質に関わる多様なサービスを一貫してお届けできるようになりました。あるご依頼ではがんと正常な組織が混在するサンプルからがんの部分だけを取り出して分析したいということでしたので、レーザーで切り出す作業をA社に、RNAなどの抽出をB社で行い、遺伝子解析はC社で行って結果をお戻しする、タンパク質の抽出から解析は弊社で行う、という対応をいたしました。

また、弊社で実施したプロテオーム解析で同定できたタンパク質をリコンビナントタンパク質として作りたい、とか、そのタンパク質に対する抗体を作りたいというご依頼もあります。弊社では扱っていないサービスですが、専門とする会社さんと提携することでお客様の研究を止めることなくスムーズに進めることができるようになりました。こうして、プロテオーム解析を軸にした上流や下流につながりのあるサービスを他社と提携することで、お客様の研究の流れに一貫してお応えできるように業務提携と言いますか、連携を作ったのですね。自分たちですべて受けられるようにするのは困難ですし、他の会社さんはそれぞれが長年の経験とノウハウをお持ちのところですから、受け渡しや進捗の管理がスムーズにできれば心強いと考えました。お客様もそれぞれの受託先を探したり、連絡したりしなくて済みます。アプロサイエンスグループがハブとなって他の会社が繋がった状態でサービスのご提案をするようになって、13年ほどになります。

── 紹介にとどまらず、提携を結ぶことにはどんなメリットがありましたか。

基本的にはB to Bの繋がりなのですが、情報を交換したり教え合ったりすることが多く、自分たちの専門ではない解析サービスの基本的な知識を得ることができ、お客様への最初の提案が変わったと思います。ご依頼や相談のお話を伺っていると研究における背景や目的、将来的な方向性が見えてきますから、今だけでなく未来を見据えた提案もできます。このような踏み込んだ提案ができることも重要ですし、何よりもお断りしたり、「前処理はご自分でやって下さい」とお客様に負担をお願いするようなことが減ります。お客様にとって不慣れな作業もあるでしょうし、貴重なサンプルだからこそ受託サービスに出される場合もあるので、それをプロとして引き受けられるケースが増えたことが私たちにとっても、お客様にとっても大きなメリットになっていると考えています。

マルチな総合窓口担当を目指して

── 御社への依頼が研究のその後や広がりにも影響するとなると、ファースト・コンタクトとなる窓口の存在は重要ですね。

アプロサイエンスグループの窓口は2人で担当しているのですが、研究の大まかな方向性や内容はどちらも把握するようにしており、担当分けにはしていません。専門で分けてしまうとファースト・コンタクトで偏った提案をしかねませんし、把握していないサービスは提案できないことになりますから、お客様にとって不利益になることはもちろん、こちらも「なぜ、できなかったのか」と、悔しい思いをしてしまいます。

── たしかに、部署や担当が細分化されていると、どこが適しているのかをいちいち探さなければならず、たどり着けなくなりそうです。

たとえば遺伝子解析担当、タンパク質解析担当みたいに分けていたら、両方やりたいというニーズは拾えなくなりますね。お客様ご自身で絞り込めればいいのですが、そうでない場合だと細分化された担当では適切な提案がしにくくなるのではないでしょうか。「こんなことをしたい」という要望がはっきりわかっている方もいらっしゃれば、「このサンプルでどんなことができるのかなあ」という方もおられます。窓口担当はご研究の目的、この解析の目的、目指すところ等を伺い、さまざまな方法をご紹介しながらメリットやデメリット、価格と精度の関係などを説明して、お客様のモヤモヤにフォーカスを当てていくお手伝いという役割だと思っています。マルチに対応することで要望に添った分析ができて結果が出れば、私たちにとっても嬉しいことですね。

── 遺伝子解析の対応をされることも増えているとのことですが、どのような事例があるでしょうか。

『マルチオミックス』という言葉がよく聞かれますが、研究のアプローチが複数の解析や分野をまたいだものが増えつつあると感じています。ゲノムがまだ読めていない生物種は多々あります。プロテオーム解析においても、昔であれば、公的なデータベースに登録されている遺伝子やタンパク質の数が少ない生物種の場合にはタンパク質同定ができなかったものですが、現在ではNGSが安くなりましたから、微生物や植物であればまずゲノムを読んでしまいましょうと提案するようになりました。これはNGSを手がける提携先があるので金額や解析にかかる時間、データの出方などサービスについて知識や情報を踏まえているからこそできる窓口対応だと考えています。

── マルチに対応できる窓口担当は、分析業界の流行や傾向を早く知ることにもなりそうですね。

そうですね、プロテオーム解析だけやっているとそれ以外の分野の最先端ものを直接扱うことはなかなかありませんが、提携先を加えた新しいサービスに取り組むことで他分野の仕組みや用語を学んでいくことができます。私にとっては、ゲノム編集がまさにそうでした。現在だとかなり一般的な手法となりつつあるゲノム編集ですが、弊社ではゲノム編集技術が出始めた頃から提携でのサービスを取り扱っていたので、ゲノム編集とは何かを上流の知識として知ることができました。そのおかげで依頼や問い合わせでのゲノム編集関連の会話に付いていけるようになりましたね。自分の専門でなくても、他分野の用語を理解しておくと門外漢なりにきちんと話ができるようになります。ゲノム編集サービスを扱ってなかったら、「F1のラットとF0のラットが」と言われても「??」となったと思いますが、関わっていればこそお客様の研究内容や展望にもついていけるようになります。もちろん、わからないことは教えていただくことになるのですが、大抵はとてもていねいに教えて下さいますし、そのやり取りの中からいい提案が出てくることもあります。他社さんとの提携サービスを扱うことで知識が増え、工程を実感できるようになり、窓口担当の案内能力が高くなっていくのですね。
もちろん、私たちはプロテオーム解析がコア技術ですから、例えば、ゲノム編集技術についての話をする際にも、その下流の試験系として、天然型と変異型の網羅的な比較定量プロテオーム解析を行えば、どのような結果が得られそうか、といったイメージを共有させて頂きながらお話もできます。電話のお問い合わせで「知らないことをばんばん言われたらどうしよう」と緊張した時期もありましたが、今ではお話を聞きながら、イメージを結んでいけるようになっています。

徳島オフィスメンバー
徳島ラボメンバー

進行管理も一本化で研究者のストレスを減らす

── 窓口で受けた依頼が複数の提携先にサービスが渡るとしても、その管理はどうなるのでしょうか。

進捗はアプロサイエンスグループで確認しています。他社での分析がそれぞれお客様に報告されることもありますが、弊社で一貫した流れを把握し、途中経過やサンプルの返却まで手配しています。進行管理のようなものですね。特に貴重なサンプルを横断して扱う場合は、窓口と進行管理が1つにまとまっているのはスムーズだと思います。以前、マイクロアレイ解析を承って提携先にお願いしたケースですが、測定後にサンプルを廃棄するかどうかは必ず事前にお客様に確認して書類にしますが、廃棄可としたお客様が測定後に返却してもらえないかと言われたことがありました。提携先でのサンプル処理のタイミングなどもだいたい把握しているので、もしかしたらまだ残しているかもと聞いてみてギリギリセーフでお返しできた、という事がありましたね。自分たちも分析をやっているからこそ可能なコミュニケーションかもしれませんね。進捗を管理しているだけでなく、関係がしっかりしているからこそ柔軟な対応や管理ができると考えています。

結局のところ、できるだけ研究者の皆さんのストレスをなくしたいのです。ユーザー様ご自身が一つひとつ外注先を探したり、研究する時間を削ってご自身でアレンジやマネージメントをしたり、という手間を弊社にご相談いただければと思います。たとえばパラフィンブロックをご提供いただき、レーザーマイクロダイセクションからRNA抽出までを徳島分子病理研究所さんで、その後のNGS解析をマクロジェンさんで行うとなったら、マクロジェンさんには徳島分子病理研究所さんがオーダーシート同梱で送っていく手配をしますので、お客様はサンプルを一カ所に送るだけ。そのプロセスはアプロサイエンスグループで手配して管理しますからお客様にストレスはかかりませんし、受け渡しでのトラブルも少なくなります。研究者の負担が少なく、安心安全に結果を出せることが私たちの目指すところです。

── 受託サービスを扱う者同士だからこその連携の良さは、どんなところにあるでしょうか。

ビジネスだけではない、気持ちが連携している部分は確かにありますね。非常に難しい抗体作製を受注して提携先にお願いした時、内心どうしようと思っていたのですが、「わかっています、お金はかかりますけれど」と言ってもらえた時は心強かったですね。いい結果が出なかった時は窓口の私も申し訳ないと思いますし、うまくいけば我が事のように嬉しくなります。お客様から「このサンプルはマウス300匹分なんです」とか、稀少な病理組織を託された時などは、提携先さんにも貴重なサンプルなのでとお伝えして、気持ちもしっかり共有します。ただ再委託でお願いしているだけではない繋がりがあると思っています。

提携先でお客様の想定とまったく違う結果が出た場合やトラブルが起きた場合でも、多くは窓口である弊社がお客様にご説明するので、一連の解析で1つの会社だけが矢面に立たされることなく包括的に進めていけることも提携するメリットになっていると思います。仲間のような関係で、弊社が“受託サービス団”の代表になっているような感じです。

「安請け合いをしない」プロの矜持

── “受託サービス団”においてトラブルが起きるとしたら、どんな場合でしょうか。

安請け合いが一番のトラブルの元だと考えています。いただいた依頼も相談もできるだけお断りせず、お役に立ちたいとは思っていますが、考えられるリスクを最初に説明することこそが誠実な対応だと考えています。お客様が「こうなるはず」と思われていても、望む結果が得られないこともあります。ヒヤリングの段階でわかれば、事前のリスクを伝えること、時にはその結果にはなりませんとお伝えすることも大切なのですよね。安請け合いしてしまうとお客様にも受託の提携先にも、もしかしたら研究分野そのものにも迷惑がかかってしまいます。受託サービスはプロフェッショナルという意識でやっていますが、やはりできることには限界がありますから、これはできませんと言わなければならない局面もあります。

── 営業的には厳しくなるかもしれませんが、研究に悪影響を与えないためのストッパーの役割にもなるのですね。

サンプルの状態が良くないために、このまま解析を進めてもお金がもったいないですよと3時間くらいディスカッションして説得したこともありますし、別の方向性を提案したことで依頼を受けられなかったこともあります。やはりお金も時間もかけていただくことですから、安請け合いをしてしまうとお互いにいいことが何もないです。

提携している受託サービスの特色もしっかりご説明する必要があります。例えば、ご依頼内容が条件検討から必要な複雑なものであれば、低価格・短納期を得意とされている提携先ではなく、別のところに依頼された方がいいのではないですかと提案することもあります。最近のオミックスデータは膨大になっており、より複雑な解析が必要な場合では、提携先以外の会社を手配することもあります。やはり餅は餅屋と考えて提携先がご依頼にマッチしなければ、お断りすることも出てきますね。

解析メニューで迷子になったら、問い合わせ

── 御社の“受託サービス総合窓口”は、どんな方におすすめでしょうか。

受託サービスのメニューを見ても、どれが自分にとって必要なのか、どこまでやってくれるのか、メリットは何かなどわからないことが多いと思います。どのメニューに結びつくのかがわからないまま見積もりのボタンをクリックするのは難しいでしょうから、ぜひそこでご連絡いただければと思います。外注に出せば何をできるのかを知りたい、自分で適切なサービスを探せないというだけでも大丈夫です。たとえば、「遺伝子の発現を解析したい」とだけお問い合わせいただいても、弊社のメニューのご説明もいたしますし、最適なメニューを一緒に考えてご提案することもできますので、内容を絞り込む前段階でもご連絡ください。

時間や手間、設備の問題などで自分の研究室ではできないけれど、こんなデータは出るだろうか? と考えている方も、研究の内容や目的がはっきりしていない方でも、しっかりした実験計画がまだなくても、窓口にいる私ともう一人の担当者がご要望をしっかりとヒヤリングさせていただき、然るべきサービスにお繋ぎできると考えています。プロテオーム解析に関わるものでも、別の対象であっても弊社で内容をしっかりと把握して、提携先につないでいきます。最後までお客様と同じゴールを目指して、いっしょに走って行きたいと思っています。

── 受託サービスならではの良さ、付加価値はどんなところにありますか。

分析や前処理などのテクニックを理論的にわかっていたとしても、ご自身が手を使って行うのはスキルの部分で大変なことが多いと思います。受託サービスを手がける方は皆そうだと思うのですが、私たちは常日頃からスキルを磨いています。毎日メンテナンスしている車が性能を発揮する走りができる、あるいは熟練ドライバーと週末ドライバーでは性能を生かせるかどうかは変わってくるようなものだと思います。ミスが許されない貴重なサンプルに日々向き合っている勝負師的なところもありますが、これが私たちの仕事です。なので、難しい解析や厳しい局面でお任せいただければと思いますね。データの信頼性は、ピペッティングひとつでも変わりますので、スキルが保障された受託解析サービスの利用を検討していただけたらと思います。

(取材/文・坂元 希美)
(掲載/日本の研究.com)

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